2025.12.12

東京コミコン2025ステージレポ:アーティストアレイ

東京コミコン2025初日午後、「アーティストアレイ・ショウケース」が開催。総合司会を務めたアメコミ系ライター杉山すぴ豊さんのこの言葉から始まりました。

コミコンの“コミ”とは“コミック”のコミ。コミコンという文化はコミックというものをすごく大事にしてきて、そのリスペクトから始まったイベントということです。そして、東京コミコンもアーティストアレイという形を通じて、このコミック文化、コミッククリエイターたちにいつもリスペクトをしてきました

Section 1  C. B. Cebulski × Kia Asamiya

前半は、マーベル編集長C.B.セブルスキー氏と、今年の「サンディエゴコミコン」で『インクポット賞』も受賞した漫画家 麻宮騎亜氏が登壇。はじめに、麻宮氏の代表作である『サイレントメビウス』とアベンジャーズのクロスオーバー作品『サイレントメビウスX(クロス)アベンジャーズ』が米マーベルで連載されることが発表され、同作をテーマにトークが繰り広げられました。

司会 まずはこの企画、どのようにして立ち上がったんでしょうか?

麻宮 ちょうど今年の春前の間ですね。 C.B.さんの方から「麻宮さん、来年40周年でしたっけ? ちょっと企画があるのだけれど……」と。C.B.さん、マーベルさん側の方から『サイレントメビウス』と『アベンジャーズ』をやらないか、というオファーがありました。

C.B. 私は麻宮先生と友だちになって一緒に仕事を始めるよりもずっと前から、麻宮先生のファンでした。だから、私にとって『サイレントメビウス』は特別なマンガで、心の中で大切な場所を占めています。そして今回、私たちのキャリアがこうして交わって、先生が40周年、私が30周年を迎えるこのタイミングで、ついにマーベルと『サイレントメビウス』の世界を融合させることができます。

司会 タイトルが『サイレントメビウスX(クロス)アベンジャーズ』ということですが……?

麻宮 最初は「VS(ヴァーサス)」や「∞(インフィニット)」などいろいろ(候補が)ありましたが、“交わる”という意味であれば、X(クロス)が良いのではないかと。

C.B. X-MENの“X”もね。

麻宮 まあその辺もね、含みがあるのですが。

C.B. ウルヴァリンやエマ・フロストも出ているね。

司会 やはりこだわりを持ってキャラクターを選ばれているんでしょうか?

麻宮 チョイスの優先順位は、自分が書きたいキャラクターということ。ただ、X-MENから2人ぐらい選ぼうかなと思いまして。ウルヴァリンはともかく、サイロックにしようかエマ・フロストにしようかと悩みに悩んで、エマ・フロストを選びました。エマ・フロストは1回も描いたことがなく、コミッションでもオーダーされることがなかったのです。

司会 今後マーベルコミックス本誌連載で登場してくるかもしれない、ということですよね?

麻宮 はい、でも残念ながら日本での出版予定は現状ありません。今後、お待ちしております。

C.B. オファー、絶対入ってくると思う! フルカラーというのも重要なポイントです。しかも今回、麻宮先生自身がカラーリングを担当します。

司会 付け加えると、メインビジュアルなど、アナログで描かれています。

麻宮 そうです、アナログです。実は私、漫画家としてコンピューターを導入するのが日本の漫画家のなかで3人目ぐらいとすごく早く、だいぶ前からMacを使って仕事をしていたのですが、最近はアナログに傾倒しております。だから、今回のイラストはアナログがメイン。自分で自分の首を締めることになりますが、アナログの良さをもっと分かっていただきたいという気持ちがありました。

司会 ストーリーも気になるところです。

麻宮 今回はシナリオも担当します。最初のアメコミ仕事『BATMAN CHILD OF DREAMS』以来ですね。おそらく今回の作品が最後のアメコミ仕事になると思うのですが、最初と最後に自分のシナリオというのは、少し感慨深いです。

司会 C.B.さんは最初にストーリーを聞いた時、どのような印象を受けましたか?

C.B. 正直に言うと、まだストーリーの詳細についてはあまり知らされていないのです。麻宮先生はシナリオについて、とてもミステリアスにされているので。ただ、いくつかの細かい部分については話しましたし、全体の大まかな構想を伺った限り、いちファンとしてすごくワクワクしています。きっと皆さんにも楽しんでいただける作品になると思います。

麻宮 これからシナリオを詰めなくてはならない(笑)。

C.B. でも、新しいコスチュームデザインの案を見ているだけで、「うわ、すごい」「これもすごい」「これもまたすごい」と思ってしまいます。コスチュームデザインだけでも十分に分かるのですが、麻宮先生は本当にクレイジーな仕掛けをいろいろ用意していると感じています。

Section 2 Frank Miller × Jim Lee

後半は、ダークな世界観で知られる巨匠フランク・ミラー氏と、DCコミックスの社長ジム・リー氏が登壇。C.B.氏、麻宮氏との記念撮影後、2人がファンからの質問に答えるQ&Aセッションが行なわれました。

司会 まずは一言ずつ、ご挨拶をお願いします。

フランク もちろんです。最初に、ありがとうございます。ここに来られたことが本当に嬉しいですし、私たちの仕事が、より大きな世界の一部になっているのを見られるのは素晴らしいことです。これからも、コミックとマンガを盛り上げていきましょう。

ジム 私が初めて東京に来たのは、32年以上前のことです。今は閉業してしまったアメコミを扱う小さな書店「まんがの森」で、コミックのPRするために来ました。当時は、アメコミのキャラクターやスーパーヒーローは、あまり知られていなかったのです。そして、30年以上経った今、こうして皆さんと、この素晴らしいコンベンションでご一緒できるというのは、信じられない夢のようです。とても良い夢です。皆さんが私たちの表現活動をこれほど強く応援してくださっていることに、深く感動しています。本当にありがとうございます。

司会  こちらこそ、お2人の来場に感激しております。早速ファンの方たちから届いた質問を含め、お話を伺っていこうと思います。まずフランクさん。「フランクさんの代表作『ダークナイト・リターンズ』が自分の人生を変えた」という方が多いのですが、なぜバットマンであのようなストーリーを作ろうと思ったのか、その発想の原点について教えてください。

フランク 当時、ずっとバットマンの仕事を依頼されていました。なぜなら、私のスーパーヒーロー作品はいつも暗くて不気味だったから。DCコミックス(のディック・ジョルダーノ編集長)は、異なる方向性を模索していたのです。そのころ私は29歳で、30歳になりたくありませんでした。自分がバットマンよりも年上になるのが嫌だったのです。そこであえて、バットマンをもっと年を取らせてしまおうと考え、50歳のバットマンを描くことにしました。……でも今、私が50歳だったのは17年も前の話です。となると、時間を遡り、彼をもっと年寄りに設定しなくてはいけませんね。

司会 次にジム・リーさん。あなたの絵が好きでたまらないという方は多く、独特な筋肉の描き方は“ジム・リー筋”と呼ばれるほどです。あえてお聞きしますが、マーベル/DC問わず、描きやすいヒーローやヴィラン、そして逆に描きにくいキャラクターはいますか?

ジム プロとして30年以上描いているので、ほとんどのキャラクターは比較的スムーズに描けるようになりました。そのうえで、マーベルとDCからそれぞれ“描きにくいキャラクター”をひとりずつ挙げるとすると……まず、マーベルで描くのが嫌なのは、スパイダーマンです。

フランク はっはーはっはっはー!!(爆笑)

ジム キャラクターとしては大好きですし、トビー・マグワイアも大好きですよ(笑)! でも、描くとなると本当に大変です。まず人物を描いて、その上にスーツのウェブ模様(クモの巣状のライン)を描いていきますが、ただ線を描くだけではなく、体の立体に沿って模様を動かさないといけないのです。つまり、キャラクターを“2回描く”ようなものです。正直、ものすごく面倒くさいのです。

フランク 5回だね。

ジム そう、彼はよく分かっていますね。次に、DCですが、実はスーパーマンがチャレンジングなのです。スーパーマンは、ほぼ素の人間の肉体を描くようなもので、衣装も、ベルトやトランクス、ブーツくらい。基本的には“マントをまとった筋肉質の人間そのもの”を描かなければなりません。フランクは分かると思いますが、例えばバットマンなら、影を落としたり、マントで見せたくない部分を隠したりできます。でもスーパーマンの場合、マントの陰に隠せず、全身をそのまま描かなくてはならない。ヘルメットや大きな手袋、ゴツいブーツのような“誤魔化しが利くもの”がないのです。だから、純粋に人体を描く作業になるわけで、これが本当に難しいのです。

フランク  もうひとつ、彼の言ったことに付け加えるのならば、スーパーマンのあのク◯みたいな胸のデッサンです。複雑すぎて、時間の半分をあの部分を描くのに費やすことになる。しかも描いているうちに、だんだん“S”に見えなくなってくる。ただの奇妙な代物になるのです。

司会 なるほど、そういう話はやはり面白いですね。さて、フランクさんと言えば映画作家としても活動されています。『シン・シティ』が2005年、『シン・シティ 復讐の女神』が2014年と、だいたい9年間隔なので、そろそろシリーズ3作目が観たいのですが、どうでしょう?

フランク たぶんね。

司会 おおおお! これはすごい!! 今回(『シン・シティ』に出演した)イライジャ・ウッドさんも(「東京コミコン」に)来ているので、そのまま出演交渉してもらいたいですね! 今度はジム・リーさんにお聞きしたいのですが、今後控えているDCのプロジェクトを教えていただけたりしますか?

ジム そうですね……インターネットで誰もシェアしないということであれば、全部お話しできますよ(笑)。でも、短く言うと「ノー」です。私の立場から新作を発表することはありませんし、そうすべきでもありません。映画やドラマを製作しているチームが、自分たちのタイミングで世界に発表するべきものです。私は、そのプロジェクトを支え、キャラクターがコミックの“正史(カノン)”に忠実であるように手助けし、彼らのビジョンを実現する役割です。ですので、残念ながら具体的にお伝えできることはありません。ただし、ひとつだけ言えることは、今後のDC作品は本当に素晴らしいものになります。

……ただ、出版社サイドとしてなら話せることがあります。グラント・モリソンによる『バットマン:インコーポレイテッド』というシリーズでは、世界各地に各国のバットマンが登場します。その流れで、“日本のロビン”の物語を描くコミック企画について、いま検討を進めています。日本で長く活動しているライター、F・J・デサントと話を進めており、私自身がそのキャラクターデザインを担当します。DCをよりグローバルなブランドに押し広げ、北米だけでなく、ゴッサムやメトロポリスだけでなく、世界各国にヒーローを誕生させたいのです。この企画については、近いうちにまた「東京コミコン」に戻ってきて、皆さんに直接お見せできればと思っています。

司会 おお、すごい! コスプレする方たち、来年やることが分かりましたね? 最後にお2人とも、熱狂的なファンのみなさまにメッセージをいただけますか。

フランク ありがとうございます。そして、これからも注目してください。私は、まだまだ始まったばかりです。

ジム 実はファンの前でフランクにどうしても伝えたいことがあります。これまでも本人には話したことがあるのですが、みなさんの前で改めて言わせてください。私が大学の最終学年の頃、卒業を控えて何をして生きていくか、真剣に考えていました。そんな時に、1986年『ダークナイト・リターンズ』が刊行されたのです。その物語や表現方法、色彩、洗練された語り口、高級感あるフォーマットや装丁――私がそれまで読んできたコミックとはまるで別物で、衝撃を受けました。この作品が、私の人生の進む方向を変えてくれたのです。

フランク、もしあなたと、あなたの創り出した作品がなかったら、私は今こうして「東京コミコン」のステージに立ち、DCコミックスを率いる立場にいなかったでしょう。だからフランク、あなたを心から愛していると伝えたいです。あなたの作品が私の人生をより良い方向へと導いてくれました。本当にありがとう。

そして、ここにいるみなさんにも感謝しています。私たちが作品を作るように、あなたたちもぜひ何かを創り出してほしい。物語を生み出し、世界にシェアする喜びを、きっと感じてもらえるはずです。