
2025.8.12
サンディエゴコミコン2025レポ:ジョージ・ルーカス美術館パネル
今年の「サンディエゴコミコン」(SDCC)最終日(=7月27日日曜日)の午前中。年に一度の祝祭の大トリを飾ったのは、『スター・ウォーズ』の生みの親として知られるジョージ・ルーカス監督でした。
「ルーカス・ナラティブアート美術館」のパネルディスカッションを控えたホールHには、ライトセーバーを持って誘導する警備員がおり、もはやライトセーバーと化している人もいました。
伝説的存在のSDCC初降臨にあわせ、皆気合い十分。6,000人以上が集まり、日曜日のパネルとしては驚異的な記録を残しました。

Lucas Museum of Narrative Art Panel at Hall H
場内が暗くなり、ステージに現れたのは、ミュージシャンで俳優のクイーン・ラティファ!

さすがのマイクパフォーマンス。コール&レスポンスで会場を温めます。


ラティファは、長年の友人であるルーカスとその妻で実業家のメロディ・ホブソンをサポートできる喜びを表したあと、パネリストたちを順に招きます。

映画デザイナーで、ルーカスフィルムの副社長兼エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターも務める、ダグ・チャン。

ルーカス・ナラティブアート美術館の理事に就任した、映画監督のギレルモ・デル・トロ。

そして、『スター・ウォーズ』のメインテーマと共に姿を現したジョージ・ルーカス。観客は興奮のあまり総立ちで、ルーカスが少し照れくさそうにしていたのが印象的でした。



はじめに、ルーカス・ナラティブアート美術館の紹介映像が上映。
同美術館は、古代の洞窟壁画や児童書の挿絵、コミックブックやデジタルメディアなど、様々な時代や文化のイラストによる物語=“ナラティブアート(物語芸術)”の探求に特化し、それらを讃える世界初の施設。
建物は曲線的なシルエットが特徴で、2つの劇場、ショップ、レストラン、カフェ、図書館、イベント会場も備えた、巨大なコミュニティスペースになるそうです。
施設には、ノーマン・ロックウェル、ジェシー・ウィルコックス・スミス、マックスフィールド・パリッシュ、フランク・フラゼッタ、ジャック・カービー、ロバート・クラム、チャールズ・モンロー・シュルツ、手塚治虫、フリーダ・カーロなど、ルーカスが50年以上もかけて集めた4万点以上の作品が所蔵。
また、ルーカスの映画製作の全過程にわたる小道具、模型、コンセプトアート、衣装など、多岐にわたる資料も展示予定。『スター・ウォーズ』関連のイメージが映し出されるたび、会場から歓声が上がりました。

ディスカッションの話題は、美術館設立の経緯から。ルーカスは、投資目的で作品を集めてきたわけではない、と強調します。
「私にとって大切なのは、作品との感情的な繋がりです。莫大な費用を投じて制作されたから、有名なアーティストが手がけたから、などは関係ありません。もっと個人的なものなのです」

また、共通の信念体系の重要性を示すために、ナラティブアートは必要不可欠であると説明しました。
「小さな物語であっても、人々に影響を与え、コミュニティを生み出す。それが社会にとっていかに重要であるかを示すことが、この美術館の使命です。石器時代であろうと、ルネサンス時代であろうと、人々が信じる物語――すなわち神話は常に存在してきました。たとえそれが事実でなくとも、信じることで共通の信念体系が生まれ、それこそが社会を支える大切な基盤となります」
「今日では、多様な世界観や異なる信念体系が混在し、以前より共通の信念を持つことが難しくなっています。しかし、社会は共通の信念体系なしには成立しません。この美術館の作品は、私たちが日常生活で共有している信念や価値観、つまり現代の神話が何を意味するのかを示しています。鑑賞者には、感情的な体験を通した気づきを与えることでしょう」

デル・トロは、美術館には“イメージの系譜”が展示されていると紹介。
「この施設は、一人の人間とそのコレクションではなく、イメージの伝播の歴史が見て取れるものになっています」
「素晴らしいのは、表現の形がどのようにして今の私たちの文化を形成したのか、そのステップを一つひとつ教えてくれることです」
また、ユニークな例え話で、文化的にも重要な価値があると主張します。
「もしクラシック音楽しかなく、ロックンロールが生まれなかったらどうなるでしょうか? これはロックンロールであり、ロックンロールは大切にされるべきなのです」


また、自身もルーカスもコレクターではあるけれど、“一時的に所有しているだけ”で、コレクションを共有するのは美しい行為だとコメント。そして、同美術館は「アートという詩を讃える場所である」と、熱弁しました。
「ここにある作品はすべて感情的で、私たちが属するものを祝福しています。コミックブックをはじめとした大衆神話は、どんなジャンルであっても、その感情に誰でもアクセスすることができます。だから、これらの作品は、個人や権力、親のものではなく、皆のものなのです」

チャンは、幼少期に影響を受けたアートが過小評価されてきたことに対し、寂しさを感じていたと回想。多様な作品に触れられる同美術館の設立が、次世代のインスピレーションに繋がることを願っていると話します。
「コミックアートや雑誌のイラストレーションは、かつてはあまり評価されていませんでした……でも、それらの作品の存在により、私はアートを楽しみ、アートを学ぶようになりました。ジョージとメロディがこの美術館で行う素晴らしい点は、これまであまり注目されてこなかったアーティストたちに敬意を払い、認めていることです」
後半、ルーカスは改めて神話の重要性について語りました。
「物語は、他者との繋がりを感じさせてくれるし、すべてを知る必要があるという不安も和らげてくれる。でも、現実には、人間はなにも知らないのに、なんでも知っていると思い込んでしまう。宇宙を見ても、ほんの一部分しか分かっていないのに、自分はすべてを理解していると思い込んでいる。この種のアートは、そうした“限られた知識”を逆に祝福します」
「SFは神話であり、まだ“現実”にはなっていないけれど、SFの本やアートがあることで『月に行けるかもしれない』と人々に夢を与え、実際にそれを実現させました。でも問題は、“それがなにか”を人間が完全に理解できるかどうかです。世界はあまりにも広くて複雑で、人間には到底理解しきれません。だからこそ、私たちは“すでに知っていると思っていること”に頼るべきではありません。むしろ、“未知”や“分からなさ”こそが、新しい発想やインスピレーションの源になるのです」

ルーカスが“民衆芸術の神殿”と称した「ルーカス・ナラティブアート美術館」は、2026年にロサンゼルスで開館予定です。


#サンディエゴコミコン