
2025.5.15
大阪コミコン2025ステージレポ:ニコラス・ケイジ
これまでの「東京コミコン」「大阪コミコン」のセレブステージ(※ハリウッドスターが登壇するトーク形式のイベント)において、最も濃厚な内容だったと断言できるのが、5月3日に行われたニコラス・ケイジのステージです。
ケイジと言えば、ハリウッド超大作、サスペンス映画、アート系フィルムなど、大小問わず様々な作品に出演し、俳優として唯一無二の存在ですが、それはステージの上でも同様。最初の挨拶では謎の自作ソングを披露、会話の最中でも不意に今まで演じたキャラクターに変貌、独特のオーラに、会場中が圧倒されていました。
人気主演作の続編の噂にまつわる喜ばしいコメントや、先日ファーストルックが解禁されたばかりの新作実写ドラマ『スパイダー・ノワール』についてのネタバレを回避したギリギリの回答、そして故デヴィッド・リンチ監督との胸が熱くなるようなエピソードなど……ケイジの吹き替え役として有名な大塚明夫も交えてトークが行われた、スペシャルステージの様子をお届けします。
セレブ・ステージ:ニコラス・ケイジ


ケイジ おはようございま〜す、ありがとうございます。Happy to be here with you!
―初めに、日本のファンに一言いただけますか。
ケイジ Oh, yeah, absolutely. So you know my wife Rico, I met her in Shiga, and I like to take her to our favorite little restaurant in Nevada. It’s called “Osaka Japanese Bistro”. And when I’m there, I like to sing a little song, and I’d like to sing it for you. She asked me to do it so. おでん〜おでん〜、うど〜ん、おでん。しあわせ〜、しあわせ〜。
(※自作歌のくだりの唐突さをお伝えするため、あえて日本語訳は付けませんでした)


―まず大塚明夫さんから、ニコラ・スケイジさんの魅力や、ぜひご本人に聞いてみたいことなど伺わせてください。
大塚 私は、この日本でMr.ニコラス・ケイジのシネマがやる時に、大体ニックの声をやらせてもらっている人間です。

ケイジ そう聞いています。ぜひ、あなたが演じる“私”の声を聞かせてほしい。私が日本語で話すとしたら、どんな風に聞こえるのでしょう? どの作品を担当しましたか? 『ワイルド・アット・ハート』はやりましたか? 私はああの作品の中でこう言いました。(役に入り、)“This is a snakeskin jacket. For me, it’s a symbol of my individuality and my beliefs and personal freedom.(日本語訳:こいつは蛇革のジャケットだ。魂の自由を信じる俺って人間のシンボルだ)”―。
大塚 スネークスキンジャケット? あれはやっていないんじゃないかな……。

会場 笑
ケイジ どの作品をやりましたか?
大塚 一番最近やったのは、『シンパシー・フォー・ザ・デビル』。
ケイジ あの作品ね、大好きです。
大塚 そして今は、『ロングレッグス』。
ケイジ おお、OK。(役に入って大塚に顔を近づけ、)“there she is, the birthday girl.(日本語訳:いたいた、誕生日の女の子だ)”。
大塚 『ロングレッグス』ですけれど、あの……台本はまだ見てないです。
会場 笑
―大塚さんがニコラス・ケイジさんの映画の中で一番印象に残っている台詞をお願いします。
大塚 そうですね。一番最近やったのでは……。(主人公が)車に人を乗せて、気がつくとニックがいて。それで(役に入り、)“ドラ〜イブ”。
ケイジ とても良いですね。“ドラ〜イブ”って囁きながら言っていて。すごい、すごい。
大塚 ありがとうございます。


―ニコラスさんはこういう形のイベントに参加するのはほぼ初めてだと聞きました。それが本当かどうかということと、今回参加した理由を教えてください。
ケイジ これが私にとって、初めての日本でのコミコンになります。コミコン自体は以前にも参加したことがありますが、今回は私にとって特別です。というのも、私が皆さんの美しい国をどれほど愛しているか、ご存知でしょう?
そして言うまでもなく、私はここ日本で恋に落ちましたし、妻は日本人です。だからこそ、皆さんに直接会って挨拶をしたかったのです。
それに、私は日本映画の大ファンで、常に、いつか日本で映画を作りたいと思ってきました。三池崇史監督や、阪本順治監督、是枝裕和監督などが最高の映画を手がけており、日本には素晴らしい俳優がたくさんいて、撮影クルーも最高です。
そんな映画好きとして、日本映画のファンとして、そして何よりこの美しい国にいると心から幸せを感じる人間として、今回このように招いていただけたことはとても光栄です。皆さん、本当にありがとうございます。ここに来られて嬉しいです。

―ありがとうございます。 とても嬉しいですね。今回事前アンケートを募った際、ニコラス・ケイジさんの映画の中で最も人気が高かったのが、『フェイス/オフ』と『ナショナル・トレジャー』でした。それぞれ続編制作を望む声もありますが、いかがでしょうか?
ケイジ ありがとうございます。『フェイス/オフ』は、これまで私が出演した冒険映画の中でも、おそらく一番のお気に入りです。ジョン・ウー監督との撮影は本当に素晴らしい経験でした。彼はまさに映画界の巨匠の一人です。
そして、まだ確定ではありませんが、続編についての話し合いが以前にも増して活発になってきており、『フェイス/オフ2』が実現する可能性が高まってきています。
『ナショナル・トレジャー3』の話も出ていますが、まだはっきりしたことは何もありません。近いうちに脚本をもらえるかもしれないと言われているので、もしかしたら実現するかもしれません。

―様々なジャンルの作品に出演されていますが、出演の決め手について教えてください。
ケイジ 私にとって一番大切なのは、自分の記憶や人生経験をそのキャラクターに活かし、本物の感情を込められるかどうか。できるだけ“演技”に感じさせたくないのです。
だから、脚本を読む時にはいつもこのように探しています―その記憶はあるのか?このキャラクターやセリフに本物の感情を込めるための、自分の感情の引き出しは十分あるのか? それが何よりも大切なのです。
もう一つ重要なのは、監督と一緒に歩調を合わせられるかどうか。監督が私の新しい一面を見つけてくれて、私自身を再発見、あるいは再び創造してくれるかどうか、そういう可能性も重視しています。

―今回の「コミコン」はニコラス・ケイジさんの来日がきっかけで、ゴーストライダーとスパイダーマン・ノワールのコスプレイヤーが増えた説もあります。お答えできる範囲で、(2026年に配信予定の実写ドラマ)『スパイダーマン・ノワール』についても、教えてください。
大塚 ちなみに、(アニメ映画)『スパイダーマン・スパイダーバース』のスパイダーマン・ノワールの声も、私がやりました。
ケイジ おお、ぜひ聞いてみたいですね。さて、長い回答になりますよ。私たちがここにいるのは、コミック、グラフィックノベル、アニメを愛しているからですよね? それらは私の人生にも大きな影響を与えてきました。
子どもの頃、コミックのお陰で字を読むことを学びました。色鮮やかな絵を見ながらページをめくるうち、自然と読めるようになったんです。自分の名前を“ルーク・ケイジ”というスーパーヒーローから取った名前にも変えました。だからこそ、ここに来ることは私にとって、とても大切な意味があるのです。
『スパイダーマン・ノワール』についてですが……まず最初に簡潔に言いますとお、良い作品になると思います。まだ全体を見たわけではありませんが、出演者やスタッフの皆さんと一緒に仕事ができて本当に楽しかった、ということはお伝えできます。
制作スタジオからはあれこれ言われていますがー、私は言葉が好きで、つい長く話しちゃうんですよ。翻訳する時には、私の言葉遊びも楽しんでもらえたら嬉しいです。ー制作スタジオは、私の周りに厚さ5インチ(=約12cm)ぐらいのアクリル製の「沈黙の壁」――まるで“防音コーン”みたいなものを設置してくるんですよ。つまり「この作品については一切喋るな」とハッキリ言われておりまして。だから、内容についてはとにかく謎めいたままにしておく必要があるのです。『スパイダーマン・ノワール』について話せるのは、これがほぼ限界です。
ゴーストライダーというキャラクターには、本当に魅了されました。なぜなら、彼は哲学的な存在なのです。あれほど恐ろしい見た目で、いわば”悪の力”と結びついていながら、その力を変換し、善のために使おうとしている。その矛盾に深く惹かれましたし、真剣に向き合っていました。
だから、とある会社が「ラスベガスに『ゴーストライダー』のスロットマシンを作りたい」「ジョニー・ブレイズとしての君の顔を使えば、大金が入るよ」と持ちかけられた時、私は断りました。ゴーストライダーというキャラクターをギャンブルと結びつけたくなかったんです。だから、完全にその話を断ち切りました。”闇の力”を使いながらも善を目指そうとする――それが『ゴーストライダー』の本当の力だと思います。

―先ほど話にも出た『ワイルド・アット・ハート』ですが、デヴィッド・リンチ監督が亡くなりました。同作はニコラス・ケイジさんの代表作です。この作品やリンチ監督との思い出について語っていただけますか。
ケイジ デヴィッド・リンチについてですが、まず第一に、彼が亡くなってとても悲しい気持ちになりました。それと同時に、彼の死後に寄せられた数々の賞賛トリビュートに対し、本当に感動しました。それによって、彼が世界中に与えた文化的なインパクトの大きさが改めて明らかになったと感じました。
彼がよく語っていた“師匠”とも言える監督がフェデリコ・フェリーニで、デヴィッドはある意味で“アメリカのフェリーニ”だったと思います。フェリーニがそうであったように、リンチも夢のような映像世界を創り出すことができた人でした。
決して“奇をてらった奇妙さ”ではなく、その映像の背後にはいつも、観る者の心に残るような感情的な理由や意味がありました。彼の作品を観た後も、心に余韻が残り、私たちに何かを投げかけてくる――そういう力があったのです。スティーブン・スピルバーグ監督をはじめ、様々な人々が彼を“魔法使い”と称しています。
そして何よりも、『ツイン・ピークス』によって、テレビというメディアを根本から変えてしまった。あのような番組は、それまでどこにも存在していなかったのです。
デヴィッド・リンチとの時間は、本当に魔法のようでした。彼は私にとって最初の監督だったんです――何がって、「楽しんでいいんだよ」と言ってくれた最初の人。当時の私は、とても気性の激しい若い俳優で、いわゆる“メソッド演技”でいつも役になりきっており、正直言って精神的にキツかったのです。
そこでデヴィッドに、「この映画を撮る時、楽しんでもいいですか?」って聞いたんです。すると彼は――あの独特な口調で――こう言ったんです。(リンチ監督の特徴を掴んだ声で、)「ニックスターー彼は私をそう呼んでましたー、楽しんでいいかって!?それどころか、楽しむことが“必要”なんだよ。」その瞬間、肩から重荷がスッと下りたような気がしました。
それからは、本当に楽しい撮影の日々でした。彼はいつも現場で音楽を流していて、魔法のようなアイデアを次々と思いつくのです。
ある日なんて、「今日はオペラの『アリア』を歌ってもらうよ。テーマは“コットンボール”(筆者推測:奇妙な綿の宴)だ!」って言ってきて、私は「OK、デヴィッド、やるよ」って答えました。映画には使われなかったけれど、そういう突飛で楽しいことを真剣にやるのが彼のスタイルでした。
逆に私から「エルヴィス・プレスリーみたいに喋って、蛇革のジャケットを着たい」と提案すると、彼は「いいね、ニックスター。それは最高のアイディアだよ、相棒」って言ってくれたのです。だから、彼との時間はとても情熱的で、愛情に溢れた、幸せな思い出なのです。


#大阪コミコン